長野県看護大学名誉教授
名古屋学芸大学名誉教授
清水 嘉子
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Profile 研究者プロフィール

清水 嘉子教授

清水 嘉子Yoshiko Shimizu

長野県看護大学名誉教授

Nagano College of Nursing, emeritus professor

名古屋学芸大学名誉教授

Department of Nursing, Nagoya University of Arts and Sciences,emeritus professor

清水 嘉子教授

About これまでの研究について

科研費獲得前に行っていた研究は、育児ストレスの研究です。我が国において漠然とした母親の育児への不安である育児不安の研究が中心となっていた頃に、育児ストレスという母親が育児しているときに周辺環境を母親がどうとらえるのか、恐怖として受け止めたときにストレスとなりうるというLazarus&Folkmanの考え方を取り入れて、1995年あたりから母親の育児ストレスの研究に着手した。母親の育児に伴う情動反応に着目し、包括的な母親の心理的な側面である育児ストレスの実態から育児ストレスの影響することや育児ストレス尺度の開発さらに在日外国人や在留邦人の母親への研究に取り組んだ。育児ストレスには育児不安を包含していて、母親の育児生活環境に対するアプローチすることを可能とした。
その後は、育児幸福感の研究に発展し、ここからは科研費の獲得によって研究は推進されていきました(詳細は過去の研究成果を参照)。基盤研究Cの獲得は5回に渡り、総計2500万円の科研費により研究が展開された。前半の4回の科研費による研究では、最終的には効果的な介入プログラムや、測定するための尺度開発、母親の健康チェックシートなど日々の活動に有益な形まで提案できるよう取り組んできた。
後半2回の科研費による研究では、子育て期にある夫婦を対象とした研究で、子育て期の夫婦の協動(夫婦ペアレンティング)に着目した研究に発展している。その実態や様相を明らかにしつつ、夫婦による子育ての協働を促進するためのプログラムを開発し周知していくことを課題としている。自ら3人の子どもの子育てをしながら一貫して推進したこれらの研究は、科研費の獲得により、より確実なものとして推進された。

Parenting 夫婦ペアレンティング研究の学術的背景

夫婦の育児の協働は海外では夫婦ペアレンティング(Co-parenting)として着目され様々な研究がなされてきた。夫婦ペアレンティングは「(離婚後の)共同養育、共同子育て」と訳される。北米でこの言葉が使われる時には、「月水金は父の家で火木土は母の家、誕生日は年交代、子どもにかかる費用はすべて半分ずつ、あるいは収入比にあわせて父母が負担する」など、父母が養育を物理的に半分ずつ負担し、積極的に父母双方が子どもの養育を離婚後も行うことを指す。と同様に、夫婦ペアレンティングとは「夫婦関係を基盤に母親と父親が互いに子育てを支え、子どもに安定した生育環境を提供するために協力し合うこと」、つまり子育てを母親だけに任せるのではなく、父親も一緒に参加して夫婦で協力し合って子育てを行うこと、という意味もある。両親が親としての役割をどのように一緒に行うのかということ、さらに広くその子どもの世話と養育に責任を負うべき複数の養育者が共有する行為とされている (1)。夫婦ペアレンティングを進めることは、共働き夫婦が円満な関係を築くことになり、子どもの成長にも大いに良い影響を与える (2)。

我が国では1950年代までは、同居の祖父母が子どもの世話をしたり、お隣の家が一時的に子どもを預かったりしている。夫婦以外に子育てに協力できる人が身近にいた時代から、核家族化が進み子育ては基本的に夫婦だけで行う環境に変わった。子育ては夫婦で一緒に協力しなければうまく行かないと考えるが、男は仕事、女は家庭という役割分担で表面上うまく回って行き、いつのまにか子育ては母親の仕事という固定観念が出来上がっている。そうした状況において、我が国の子育て研究は、支援の評価や父親の養育行動など父母別々に検討するものが圧倒的に多い (3・4)。あるいは父母の行動の差異や父母役割の調整行動の検討 (5・6) など、子育て生活における夫婦関係を扱うものもあるが (7)、子どもに対する実際的なかかわりの協働やその調整については報告されていない。

海外では、1995年頃より二人親家庭に夫婦ペアレンティングの概念が導入されて研究がすすめられており、母親が父親の育児関与を妨げる直接間接の原因となりうること、つまり性役割観が強い母親は、父親の育児関与が低いことが明らかにされている (8)。研究者として子育て研究に取り組み、母親の育児ストレスや育児幸福感、育児への自信には、夫の関りが大きいことが明らかにされている。育児幸福感では生後3か月と1歳6か月、3歳で“子どもとの絆”は高いものの、“子育ての喜び”、“夫への感謝”が低下していた。育児ストレスでは“夫の支援のなさ”が高く“心身の疲労”が低下していた。“育児不安”には有意な変化はなかった (9)。第一子の出産を機に、夫婦はそろって子育てのスタートラインについても、妻が認知する夫からのサポートは、子どもの成長とともに低下していることも明らかにされている (10-13)。加えて、夫婦の親密性も低下している (14)。こうした状況を踏まえて、我が国では、夫婦が協働しながら子育てに向かうための介入モデルが期待されているが、夫婦の育児の協力については、まだ途に就いたところであり、これからの研究成果に期待されるところである。

引用文献

  1. Mchale JP,Khazan l,Erera P,et.al..Copareenting in Diverse family systems.In Bornstein, M.h.(ED)Handbook of parenting 2nd ed.:Vol3 Being and becoming a parent.Hillsdale,NJ:Lawrence Erbaum Associates,Inc.2002,2,75-107.
  2. 中川まり.共働き夫婦における妻の働きかけと夫の子育て・家事参加.人間文化創成科学論叢.2010,305-313.
  3. 牧野考俊,金泉志保美,伊豆麻子,他.父親の育児に関する研究動向と今後の課題.小児保健研究.2011,70(6),780-789.
  4. 藤本美穂,今西誠子.子育て支援に関する文献検討-実施した事業の効果に焦点を当てて-健康医療学部紀要,2016,1,73-81.
  5. 加藤道代,黒澤泰,神谷哲司.母親のgatekeepingに関する研究動向と課題-夫婦ペアレンティングの理解のために.東北大学院教育学研究科研究年報.2012,61(1),109-126.
  6. 加藤道代,黒澤泰,神谷哲司.コペアレンティング-子育て研究におけるもう一つの枠組み.東北大学院教育学研究科研究年報.2014,63(1),83-102.
  7. 佐々木裕子,高橋真理.父親から見た無第一子出生前後における夫婦関係の評価-家族イメージ法による分析を中心に-.家族看護研究.2007,13(1),53-59.
  8. McBride BA.,Brown GL,Bost K K,et al. Parental identity, maternal gatekeeping, and father involvement. Family Relations.2005, 54,60-272.
  9. 清水嘉子.乳幼児の母親の心身の状態に関する縦断研究.日本助産学会誌.2017,31(2),120-129.
  10. 加藤道代,黒澤泰,神谷哲司.夫婦ペアレンティング調整尺度作成と子育て時期による変化の横断的検討.心理学研究.2014,84(6),566-575.
  11. 加藤道代.子育て初期の母親の養育意識・行動とサポート資源.国立婦人教育会館研究紀要 .1999,3,53-59.
  12. Benesse次世代研究所.妊娠出産子育て基本調査・フォローアップ調査-妊娠期から子どもが2歳になるまでの家族の成り立ちを探る.2011,1-117.
  13. ベネッセ教育総合研究所.乳幼児の父親についての調査.2016.
  14. 小野寺敦子.親になることに伴う夫婦関係の変化.発達心理学研究. 2005,16(1),15-25.