長野県看護大学名誉教授 名古屋学芸大学名誉教授 
清水 嘉子 研究個人サイト

2017年~2021年 文部科学省補助金基盤研究C 家族の再構築を促す育児期支援プランの検討

Summary 研究の要旨

本研究は父親の子育て関与を促進したり阻害したりする調整者としての母親の存在に注目し、育児期に互いが協力して子育てに取り組み、子どもを含めた家族の再構築を促すための育児支援プランの検討と、プランで活用する冊子を作成するための尺度の開発を目指す。夫婦ペアレンティング調整尺度を用いて2歳から5歳までの子どもの育児期にある夫婦を対象とした以下の研究を実施した。

研究01「選択的回答並びに記述式質問項目による自記式質問紙調査」研究02「家庭訪問による個別インタビュー調査」研究03「夫婦ペアレンティング尺度の開発」

下記の表は横スクロールで閲覧できます

研究01「幼稚園、子育て支援センターを通じた選択的回答並びに記述式質問項目による自記式質問紙調査」2018-2019<自記式質問紙調査>育児期にある夫婦ペアレンティングの行動の把握/影響要因、関連要因の検討 研究02「調査協力に意志のある夫婦へ家庭訪問による聞き取り」2019-2020<インタビュー調査>育児期にある夫婦関係の自覚と夫婦ペアレンティングへの思い 研究03「幼稚園、子育て支援センターを通じた質問紙調査」2020-2021<質問紙調査>育児期の夫婦ペアレンティング尺度内容の検討

Purpose 研究の目的

近年、産後クライシスは、産後の夫婦の危機として注目されている。夫は妻の出産後においても長時間労働が継続しており(ベネッセ次世代研究室、2011)、特に子どもが3歳満にある夫婦の離婚が最も多い現状にある。その背景には、母親は産後の生活の予測が不十分で、産後のホルモン変化やマタニティブルーを体験する中で、子どもの育児をしている。この間、母親の夫に対する愛情は、出産後に急激に低下していることが明らかにされている(渥美、2009)。我が国の育児支援では、子どもの乳幼児健診を中心にした母親への育児指導が行われているものの、育児期にある夫婦を対象にした介入プランはほとんど紹介されていない。夫婦の調整行動の実態と関連要因を明らかにすることにより、子育て期にある夫婦の調整行動への介入のための示唆を得るとともに、子育て期の夫婦の協力への支援、さらに生涯にわたる人間発達のプロセスとして親になることへの支援に通じていくものと考える。

Expectations 研究の期待

サポート者である父親に着目し、母親にのみ介入するのではなく、母親と父親の両者に介入することで、出産後の危機を乗り越え、家族の再構築を促すことが期待できる。
父親は母親の良きサポート者としての存在であることを自ら自覚しながら、コペアレンティング(Feinberg, 2003)の視点から、夫婦で互いを理解し助け合うことによって、お互いに影響しながら、親としての役割をどのように一緒に行っていくかを追求し、よりよい子育てを可能とすることが期待できる。
育児期を夫婦で作り上げ、子どもを含めた夫婦の関係性について見直すことにより、お互いが親としての自信を持ち、人としての成長を遂げるとともに、子どもの生育環境に良い影響をもたらすことが期待される。

Definition of terms 用語の定義

コペアレンティングは両親が親としての役割をどのように一緒に行うかということ15)、広義では、「その子どもの世話と養育に責任を負うべき複数の養育者が共有する行為」16)ととらえる。本研究では、夫婦ペアレンティング調整尺度4)を用い「母親が行う父親の子育て関与を促進する行動と批判する行動」に着目し、母親自身の行動認識と父親の母親の行動への認識を夫婦ペアレンティング調整とし、コペアレンティングの一側面として位置づけた。

Result 研究の結果

研究01 選択的回答並びに記述式質問項目による自記式質問紙調査

1.“夫婦ペアレンティング調整尺度”を用いて、夫婦ペアレンティング調整の状況を明らかにするとともに、それらに関連している要因を探索した。

【研究1-1】報告書

2.夫婦の子育ての話し合いの状況、夫婦が相手から子育てを批判された時の気持ちや、批判の背景にある事柄の受け止めを明らかにした。

【研究1-2】報告書

3.母親の夫婦ペアレンティングである促進と批判を母親が行動に移す影響要因を探索した。

研究02 家庭訪問による個別インタビュー調査

夫婦ペアレンティングへの思いを聞き取り、妻の促進行動や批判行動の背景にある思いやその思いに関係していると考えられる夫婦関係の自覚を明らかにした。また、新たな夫婦ペアレンティング尺度の内容につなげた。

【研究2】報告書

研究03 夫婦ペアレンティング尺度の開発

夫婦が協力して子育てすることが夫婦関係や子どもの成長への有効性が明らかとなる夫婦ペアレンティング尺度を検討している。

調査に用いた尺度

1.育児幸福感短縮版尺度


母親が子育て中に感じる肯定的な気持ち
“子育ての喜び”5項目、“子どもとの絆”4項目、“夫への感謝”4項目の3因子からなる13項目の短縮版尺度を用いた。各項目は“1.あてはまらない から 5.あてはまる”の5件法 この尺度により、育児幸福感の程度を知ることができ、特点が高いほど育児幸福感を感じていると解釈される。なお、父親に“夫への感謝”を質問する際は、妻に感謝されていると感じるか感じないかを質問している。
調査に用いた尺度名と下位尺度項目(1)

2.育児ストレス短縮版尺度


“心身的疲労”6項目、“子育て不安”6項目、“夫の支援のなさ”4項目の3因子からなる16項目短縮版尺度を用いた。各項目は“1.あてはまらない から 5.あてはまる”の5件法 この尺度により、育児ストレスの程度を知ることができ、得点が高いほど育児ストレスを感じていると解釈される。なお、父親に“夫の支援のなさ”を質問する際は、本人の子育て支援の認識について質問している。
調査に用いた尺度名と下位尺度項目(2)

3.夫婦ペアレンティング調整尺度


父親の子育て関与に対する母親の調整行動として開発された尺度となる。
母親が父親の養育行動を支持、尊重、激励、感謝するような促進行動と父親へ拒否、避難、批判をする批判行動である。
2下位尺度の項目は、“1.まったくない から 6.いつもある ” の6件法で回答を求めた。高得点であるほど、母親から父親の子育て関与への促進あるいは批判が高いことを示す。なお父親の質問項目では父親が認識している母親の促進行動、批判行動について回答する内容となっている。
調査に用いた尺度名と下位尺度項目(3)

4.自己志向的完全主義尺度


Firostらが開発した完全主義尺度を参考に桜井、大谷により作成されたもので完全主義を多元的にとらえるものとなる。4つの下位項目、“完全でありたいという欲求”5項目、“自分に高い目標を課する傾向”5項目、“ミスを過度に気にする傾向”5項目、“自分の行動に漠然とした疑いをもつ傾向”5項目計20項目で構成される。“1.全く当てはまらない から 6.非常に当てはまる” の6件法で回答を求めた。
調査に用いた尺度名と下位尺度項目(4)

5.結婚の“現実”尺度


結婚生活の認識をとらえる結婚の“現実”尺度を用いた。夫と妻との間で一致しているかについて検討する。
3下位尺度項目は、“相思相愛”は夫婦がともに相手を愛し尊敬していることを示す。“夫への理解・支持”は妻が夫の個人としての在り方生き方を理解・尊重、支持することを示す。“妻への理解・支持”は夫が妻の個人としての在り方生き方を理解・尊重、支持することを示す。各4項目の12項目で構成される。
調査に用いた尺度名と下位尺度項目(5)

6.親発達意識尺度


親発達意識をとらえるものになる。加藤らによる、育児期にある親(父母)を対象とした親になったことによる変化と子どもの成長に伴って感じられる寂症感・後悔の教示から得られた質問項目29項目による“関係性意識”、“人格意識”、“リソースの制約感”による3下位項目により構成される。
調査に用いた尺度名と下位尺度項目(6)

解析方法

回収した無記名の調査用紙をデータベース(Excelシート)に入力した。統計、比較、関連項目の把握は統計解析ソフトウェアIBM SPSS Ver.25 を使用した。