Expectations 研究の期待
夫婦関係を基盤にして、良好な夫婦ペアレンティングへの思いが保たれていたことから、育児期にお互いが考えていることや求めていることへの理解を深めていくことが重要な課題であると考えることから、夫婦ペアレンティングを促進することにより、発達課題である仕事への責任感や生きがい、夫婦の絆を深めるなどの「親としての成長」を互いに高め、家族の再構築を促すことに通じるものと考える。夫婦ペアレンティング促進プランの実用化に向けた研究として大成されると考えている。
長野県看護大学名誉教授 名古屋学芸大学名誉教授
清水 嘉子 研究個人サイト
2017年から2021年の科研費による研究成果を踏まえて、介入の内容や方法について検討し、介入プランに基づいた介入によりその評価を行う。このことによって、効果的な夫婦ペアレンティングを促進する方法を提案する。そのために必要となる調査を実施し介入プランを作成しプランの実施と評価を行なう。さらに周知と普及を図る。
量的調査では、パターンで見た夫婦ぺアレンティング調整の実態 (1)、育児期の夫婦の協力への影響要因 (2)、その後、質的調査に取り組み夫婦別々に聞き取りを行い、お互いの育児への批判をめぐって (3)、夫婦関係の自覚と夫婦ペアレンティングへの思い (17)の研究に着手し、尺度開発に至っている。これらの研究成果からいくつかの知見が明らかになった。
夫婦ペアレンティング調整尺度を用い「母親が行う父親の子育て関与を促進する行動と批判する行動」に着目し、母親自身の行動認識と父親が認識する母親の行動へ夫婦ペアレンティング調整として促進行動と批判行動の高低4つのパターンで分析を行った。調査対象者499人であり、4つのパターンはほぼ均等に分布しており、促進行動が高く、批判行動の低いカップルは最も良好な心理状態を示していることが分かった。このパターンの母親は子育ての話し合いを行い、納得していた。話し合いで納得することが、一つの大切な視点となりうることが示唆された (1) 。
さらに、夫婦ペアレンティングへの影響要因の研究 (2)では、母親の促進行動の影響要因は“夫への感謝”“夫の支援のなさ”“話し合い(有)”であることがわかった。“話し合い(有)”は促進高群となることに最も影響しており、次いで“夫への感謝”であった。“夫の支援のなさ”は促進高群となることが減じるに影響していた。“完全でありたいという欲求”は批判高群となることに最も影響していた。 “夫への感謝” “夫への理解・支援”は批判高群となることが減じるに影響していた。つまり、夫の支援や夫婦の話し合いが促進行動に良い影響をもたらし、完全でありたいという欲求が批判行動を高めていることが分かった。夫への感謝の気持ちや夫への理解・支援は批判行動を抑えていることから、良好な夫婦ペアレンティングへの支援の向かうべき方向性が示唆された。
加えて、夫婦ペアレンティング尺度開発においては、4つの因子構造が示されている。主因子法による因子分析の結果、29項目による4因子構造が明らかになった。第一因子は10項目で構成され“相手への思いやりと感謝”でα = .92、第二因子は7項目で構成され“助け合いたい気持ちと言動”でα = .82、第三因子は5項目より構成され“夫婦のコミュニケーション”でα = .71、第四因子は7項目より構成され“夫婦の協力を阻害するもの”でα = .77と相応な結果が得られた。併存妥当性では、夫婦ペアレンティング調整尺度並びに結婚の“現実”尺度との有意な相関が認められ、内部整合性も因子間相関により確認された。また、親発達意識尺度や属性との分析により、本尺度による夫婦ペアレンティングの特徴が明らかになった。本研究により、夫婦ペアレンティング構造が明らかにされ、相手への思いやりと感謝、助け合いたい気持ちと言動、それを維持するための夫婦のコミュニケーションであった。そしてそれを阻害する事柄である。これら4つの視点から夫婦ペアレンティングの介入がなされることが重要であると考えられた。
質的な研究では、夫婦の育児への批判をめぐりその違いや特徴が明らかになった (3)。妻は夫の批判をプラスかマイナスかに受け止めているのに対して、夫は、前2つの受け止めに加えて、妻から批判を受けても関係ないと受け止めていた。批判の背景にあるものには、妻は、互いの性格傾向による、生育歴や親役割観の違い、夫婦関係の歪みに対して、夫は前2項目に加えて、家庭内の役割や関係性となっていた。こうした夫婦の認識や受け止めのずれが大きくなる前に、お互いの思いを伝えること、親役割観の見直し、育児観の尊重、不満な思いを話すことで共有することが示唆されている。
また、夫婦関係の自覚や夫婦ペアレンティングへの思い (4)では、夫婦は互いの信頼関係や感謝の心、支え合いの中で、二人の関係への満足感をもっていた。妻を支えたいという夫の思いと、子どものために、妻に支えられている実感の中で、二人の関係は保たれ調整されていた。
夫婦関係を基盤にして、良好な夫婦ペアレンティングへの思いが保たれていたことから、育児期にお互いが考えていることや求めていることへの理解を深めていくことが重要な課題であると考えることから、夫婦ペアレンティングを促進することにより、発達課題である仕事への責任感や生きがい、夫婦の絆を深めるなどの「親としての成長」を互いに高め、家族の再構築を促すことに通じるものと考える。夫婦ペアレンティング促進プランの実用化に向けた研究として大成されると考えている。
研究者は母親の育児幸福感をより高め、育児ストレスの対処に対する支援を提案することで、育児に悩む母親が増えている現状にあって一つの試みとして位置づけることができた。今回は、サポート者である父親に着目し、母親のみ介入するのではなく、母親と父親の両者に介入することで、出産後の危機を乗り越え、家族の再構築を促すことが期待できる。父親は母親のよきサポート者としての存在であることを自ら自覚しながら、夫婦ペアレンティングの視点から、夫婦でお互いを理解し助け合うことによって、互いに影響し合いながら、親としての役割をどのように一緒に果していくのかを追求する。
我が国は、児童虐待の相談件数は増えており、母親に子育ての任が負わされている現状がある。そこで、日本の産後の夫婦に対する支援として、有効な介入プランを提案したいと考える。特に産後の育児期にある夫婦ペアレンティングに着目した取り組みは、これまで十分に行われていないことから、独創的な取り組みといえる。産後の夫婦の今日的な現状にあって、育児期初期の離婚や産後クライシス、虐待などの様々な課題への取り組みの一助となると考える。こうした新しい家族の構築を促すための支援は、今後、取り組まなければならない課題であり有意義な研究である。
科研費獲得の初年次において、夫婦ペアレンティング促進プランの作成や冊子の作成を行う。下記に示している夫婦ペアレンティングの構造として明らかにされた4つの視点を中心にコースによるプランを開発する。実施においては、コロナ禍の状況が改善されないことを想定し、遠隔によるコースプランを作成する予定である。また、コースプラン介入時に活用できる電子版冊子を併せて作成する。
2年目~3年目には介入プランの実施と評価を行う。そのために大学の研究倫理審査委員会に倫理審査の申請を行い、承認されたのちに実施計画をスタートさせる。
ネット上でプログラムの参加者を募り、各カップルがコースプランに取り組む方法を想定しているため、参加募集の準備を行う。また、プランを紹介すること、実施の方法などを示し、プランの評価には、作成した夫婦ペアレンティング尺度を参加前と参加直後、1か月後に使用する。また、質的な記述を求め評価する。その他の項目については、検討を重ねる予定である。
まとめの段階となる。発表や論文作成を行い、投稿する。また、ホームページ上にプランを紹介して、広く介入プランを活用するための準備を行う。
全体として、インターネット上の参加プランとなることから、専門の技術を持った者とタイアップしながら、プランの実施・評価の研究を進めていくことになる。また、最終的に、広く活用するための方略を検討する。
発表されているいくつかの尺度の課題を踏まえて、介入評価に必要となる夫婦ペアレンティングの状況を知るための尺度の開発に取り組んだ。特に父親のペアレンティングに関して十分に評価できるものがないこと、夫婦ペアレンティングには父親の役割が大きいと考えることから、自らの調査によって明らかにされた質的研究による実態を踏まえ尺度化を試みた。
プログラム1 夫婦ペアレンティング認識尺度からプログラムを検討
4つの視点 | ねらい | 内容 |
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プログラム1 相手への思いやりと 感謝 |
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プログラム2 助けたい気持ち 行いと言葉 |
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プログラム3 協力の阻害 理解と尊重 |
夫婦の協力を阻害するものをそのままにしない |
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プログラム4 夫婦の コミュニケーション |
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プログラム2 短縮版夫婦プログラムからプログラムを検討
4つの視点 | ねらい | 内容 |
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Ⅰ 互いの 情緒的サポート |
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Ⅱ 互いの 具体的サポート |
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Ⅲ 子育ての合意 と交渉 |
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Ⅳ 責任の共有の 困難 |
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※プログラム開始前に「父親の教育参加」についての夫婦の話し合いをする
2025年調査予定
妊娠期と育児期で共通して用いることができる尺度はないことから、時期に対応した尺度を用いた。
EPDS(エジンバラ産後うつ病質問票:Edinburgh Postnatal Depression Scale)はイギリスの精神科医John Cox(1987)らによって、産後うつ病のスクリーニングを目的として作られた。その日本版エジンバラ産後うつ病自己評価表(EPDS)は過去7日間の気分(たいていそう3点 時々そう2点 めったにない1点 全くない0点)から、うつなのか、不安なのか、家事・育児機能の評価を行う。育児不安項目(4問)、うつ項目(5問)、うつによる睡眠障害(1問)となっている。分析は合計得点で判断した。
調査に用いた尺度名と下位尺度項目(7)